私は幼い頃両親の幼少期の写真を見て、昔の世界はモノクロームの世界でできていると思っていた。
両親が写っている写真のほとんどが、モノクロームの写真だったからである。写真は誰もが信じる本当の世界だと思って
いた。それがいつの日か無意識にその世界は、写真の世界なのだと認識した。
人の意識というのは顕在意識と潜在意識があって、自分が自覚できている顕在意識はおよそ
5%で、自覚していない潜在
意識が95%と言われている。自分を理解しているようで実はしていないのだ。
私達は育った環境や文化、大人達の教えから世界を認識し、自分ではコントロールできない潜在意識が形成されていく。
そして記憶に基づいて意識や感情が自身のアイデンティティとなっていく。
私たちの脳内では記憶と想像力はほぼ同じ領域にあり、それらは過去から引き出されている。
だが人の記憶は夢を思い出す時のように曖昧で忘れやすい。ユングやフロイトは夢を解釈する事によって、無意識の世界
が解明できるという考え方を持っていた。睡眠時のレム睡眠は、夢を見ては消すという仕組みが研究で分かってきている。
人の胎児は24時間中の多くの時間を、レム睡眠に費やしていると言われている。生まれ落ちてから外界と接することで
意識に変化が生じ、自己は変化し続けている。本来の自己は幼少期の自己と、大きな関係があるのではないだろうか。
成長の過程でイメージ(夢)を持つ事が、とても重要になってくると思われるが外界と接する時間が長くなる程イメージ
を忘れていってしまうように思える。
そうならない為には意識化し、今ここに立ち返る為の行為が必要となる。
芸術を見る事は意識がありながらも、夢を体験する事に近い。
私は自分自身が幼少期に写真を真実の世界と思った時のように、もの心のつく前の子供に非日常風景の写真を見せ原初的
な意識体験をしてもらうという考えが浮かんだ。飛翔する海洋生物を、小高い丘でモノクロームの銀塩フィルムで撮影し
た。フィギュアの海洋生物を糸で吊るし、一度として同じ風景のない空に、海洋生物が泳いでるようにカメラに収めた。
この写真を見た体験が記憶の断片となり、大人になった時意識化してもらう事を期待している。
願わくはその写真を見た子供が大人になった時一枚の絵を思い出す事を。